天使たちのシーン
悲しいことがあるわけではないけれど
最近泣きたくなる瞬間というのが、けっこうある。 泣くとすっきりするし、やっぱり浄化作用があるような気がする。 何かに感動するということで出て来る涙や あまりに美しい音楽を耳にすると勝手に涙があふれてきたり 空が青く澄んでいて、見上げているだけで 泣けてきたり、とにかく泣くことに忙しい。なんだそれ。 どうでもいい人とどうでもいい話をして 私の一部分しか見ていないくせに 勝手にこんな人なんだ、と 判断されてしまったことの 悔しさ。 私が人に対して気をつけていることを 周りの人も気をつけてくれているなんて そんなことって理想なんだろうか。 私だって人を自分の色めがねで判断するけれど それを表立ってあらわしたりしない。 それはすごくいけないことだと、思うから。 悪気がないなら人を傷つけたり 不快にしてもいいのだったら 私は悪気のなさを装って自分が発する言葉を 刃にしてそういう人を傷つけてやろうか、と思ったりする。 よしもとばななさんじゃないけれど 「私はその言葉で傷ついた」と その関係が壊れてもいいから表現していこうか、などと ふと思う。 軽く扱われるのは自分がその程度の人間だからだと ある人は言ったけれど そうなのだろうか。 どの基準を持って、人が人を裁いたり 蔑んだりするのだろう。 そんなことが許されるんだったら 私は 「この人を怒らせたら怖い 気難しい人だ」くらいに 思われていたい。 すでに自分の周りには十分に自分を 理解してくれている人はいて、 その人たちを愛することで精一杯だから 本当はそんなことでいちいち傷ついてなんて いられないのだけど。 だけど、もっと人ってデリケートで いいんじゃないかなぁと思う。 以上は、駄文で。 以下に続く涙の話とは全く関係はないので。 この数日で私は強く泣いた。 よしもとばななさんの「王国 アンドロメダ・ハイツ」の中で 占い師の元へ自分が飼っていたインコの行方を捜して欲しいと 訪れた少年への占い師の言葉。 「ごめんな ピロちゃんはもう天国だ」 「いなくなってずいぶんたつね。冬が越せなかったんだ、 日本の冬は寒いからね。大きな鳥だから食べ物もたくさん必要だったんだね」 「ピロは僕を恨んでいませんか?」 「恨んでないよ、大丈夫。道に迷ってしまっただけだから。 君に会いたいなとは思っていたけれど、君に対して悪い気持ちを 少しも持たずに天にのぼったよ」 これを読んだ瞬間 自分でもビックリしたのだが 涙がぼろぼろっとこぼれ落ちてきた。 そのとき私は電車の中でこんな姿を人に見られたらやばいと 思い、必死で髪の毛で顔を隠した。 そして泣いた。泣いたというよりも泣けて泣けてしょうがなかった。 続きを読むと、その言葉は占い師の思いやりで 実際はピロちゃんは違う形で天国に行っているのだけど それがまた、心を打った。 まだちゃんと最後まで読み終えていないから 感想は書かないけれども、私がよしもとばななさんの 作品に違和感を感じながらも読み続けるのは きっとこういうことなんだろうなと分かった気がした。 これは小説で、作り物の言葉だし、ホンモノではないけど 真実でもあると確信している。 この占い師の言葉をこれから私はきっと何度も何度も 思い出すだろう。 小沢健二が日本で音楽活動を再開したというのを 知り、これはどうしてもライブに行かねば、と あれこれチャレンジしてみたけれど、チケットは正規では入手できず 大人の作戦でしか買うことが出来なかった。 お金さえ出せば行けるのだから、行こうと思えば 私はいくらでも出したけど、なんとなくその方法で 小沢健二のライブに行くのは違うような気がして今回は諦めた。 ライブはどうだったんだろうとインターネットを検索していたら 驚くことが書かれてあった。 小沢健二のライブに岡崎京子さんが来ていたということ。 岡崎京子さんをご存知だろうか。 漫画家なのだけど、私は昔からこの人の作品が好きで 見たくない描写や、読んだあと心がヒリヒリしてしまって 二度と読みたくない、と思うものもあったのだけど それでも彼女の世界観に惹かれて昔も今もすごくすごく好きな人。 岡崎さんはある日ダンナさんと散歩中に 飲酒運転の車にひき逃げにあってしまい こんな書き方して良くないとは思うけど。 他に言葉を知らないから書かせてもらうけれど 植物状態になってしまった。 かなり危険な状態が続き、生きているのが 不思議と言われるくらいの大事故だったらしい。 そして、岡崎さんは漫画を書けなくなった。 私は、それから何年か岡崎さんの近況をチェックしていたのだが やはり話すことも出来ない、けど声は聞こえている様子、とか そういうことしか出てこなくて、悲しくなりながら 岡崎さんの漫画がいつかまた読めたら、とずっと思っていた。 そしてある時期から岡崎さんの近況をチェックするのを やめた。 それは興味をなくしたからではなく、そうすることを 望んでいないのではないか?と思ったから。 わざわざ調べなくても良いニュースはきっと 勝手に飛び込んでくる、そう思ったから。 岡崎さんの生きる力を信じよう、そう思った。 それから何年かたち、今回の小沢健二の音楽活動で それを知ることになる。 5月のライブで小沢健二が 「岡崎京子が来ている」とステージで泣いたというのを 読み、もう私はその時点でだめだった。 車椅子で最前列にいた岡崎さんにすぐ小沢健二は 気がついたらしい。 小沢健二と岡崎京子さんの結びつきは やはり強力な綱で結ばれていたのだ。 岡崎さんはフリッパーズ時代から小沢健二のファンで お互いに尊敬しあって大切に思い合っていた関係。 その二人が、こんな形で出会えるなんて。 これが奇跡じゃなくてなんと言えよう。 岡崎さんが交通事故にあい危険な状態で 運ばれたときに、よしもとばななさんとともに 病院にかけつけた小沢健二は 「家族以外面会謝絶」という医師に対し 「家族です」とウソをつき、岡崎さんに会おうとする。 これはのちにばななさん自身が雑誌で語った出来事で そのときに小沢健二はばななさんに 「僕は彼女の王子様だから」と言ったそうだ。 私はそれを読んで、「これはすごい」と 思った。そう思うほかなかった。 そのとき二人は血がにじむくらいのお祈りを したという。 祈り。 ばななさんの小説の世界でもあり 小沢健二の音楽でもある祈り。 そんな色々を思い出し、コンタクトレンズがずれるくらいに 私は泣いた。 あまりに美しすぎて。 音楽と人と祈り。 そしてそのつながり。 なんて素晴らしいんだろう。 生きることってそれだけでただ切ないけれど その切なさの中にこんな素敵がある。 だから人は生きるのかな。 その奇跡に涙しながら 私はその日ずっと「天使たちのシーン」を 繰り返し聴いた。 私がとても大切に思っている曲。 毎日のささやかな思いを重ね 本当の言葉をつむいでる僕は 生命の熱をまっすぐに放つように 雪を払いはねあがる枝を見る 神様を信じる強さを僕に 生きることをあきらめてしまわぬように にぎやかな場所でかかりつづける音楽に 僕はずっと耳を傾けている
by tidakapa-apa2006
| 2010-07-09 09:51
| 音楽
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